🦫
この刺青が全てを覆い
すべて忘れさせてくれると思った。
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父と母が取り残された家を
地面に寝かされたままの姿勢で見上げた。
肌がチリチリと熱く、意識も遠のいて
赤い炎が恭しく脳裏に残る。
私は
私の内臓にこびり付いた煤を
自ら剥がし取る様に
何度も
何度も
何度も吐いた。
真っ赤な炎は
全ての思い出を
真っ黒に焼き尽くした。
全て亡くした。
私にはもう何も無いんだと悟った。
絶望に暮れた。
私もあの日
一緒に
灰になりたかった。
なれなかった。
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あてもなく歩いていた。
声を掛けてきた男が
私の赤く爛れた肌を見て
「花弁の様だ」と言った。
掴まれた腕を振り払うが
男のふざけた提案を耳にしてしまう。
「見るのも嫌なら俺が絵を描こう。
全て覆い尽くして、忘れて仕舞えば良い」
ああ。
忘れられるものなら、忘れたい。
どうでも良くなって
そのまま男について行った。
云われる侭に描かれても癪だと
自分も相手も意図しない絵をあえて選び
施すよう言った。
その日から
男の元に身を寄せた。
毎日少しずつ彫られていく肌。
針が肌を刺す度に
赤い炎が脳裏をよぎった。
吐き気に耐えられず
男に勧められた
薬を幾つか服用した。
それがあれば全て受け容れられた。
いつも事が終わる頃には
渇いた目元と
喉元に掛かる手があった。
それだけが現実だった。
そうして少しづつ刻まれていく肌
喉元の刺青は
男の所有物としての印だ。
狭く暗い部屋で
独り
何度も首に指を這わせた。
生きていたくなかった。
脳裏に残る炎の記憶は
いつも私に叫んでいた。
何度も
何度も。
耳を覆う代わりに
転がる薬を探した。
あれがあれば
すべてを
「どうでもいいんだ」と
言って仕舞える。
なんでも受け容れられる。
でも見つからなかった。
叫び声は
止まない。
そして、その叫び声は
ハッキリと耳に届いてしまった。
あの日の言葉
炎の中で何度も「逃げろ」と言っていた。
逃げろと、私に叫んでいた
その声の主を
なぜ忘れていたの?
その声は
あの時の
2人の
強い意志のある言葉